増谷淳子が日常の体験から感じること

2.靴の販売員さん


■ハイヒールがもたらした外反母趾

研修セミナーに登壇するとき、いつも7㎝のヒールを履き続けていた私。背筋がピンと伸びるし(猫背の私にはとても重要)、スタイルもよく見えるため、足が痛くても我慢していたのです。その結果、ひどい外反母趾に。セミナー研修が終わると、その近くのコーヒーショップで30分ほど足を休めないと、1歩も足が前に出ない状態です。

姿勢よく見えることを重視して、足を酷使したことを反省。そこで通勤時は足に優しい靴、登壇時のみヒール、と靴を履き分けることにしました。それでも年々外反母趾は悪化。お医者様からは3㎝以上のヒールは履かないように言われました。

■お客様に寄り添い、お客様のことを思った提案

足に優しい靴を探して、出合ったある靴店の販売員さん。私の悩みを聞きながら足に触れて、「赤くなっていて、痛いですよね」「お辛いと思います」と温かく寄り添ってくださり、あっという間に私の緊張はほぐれていきました。

足型を取った後、販売員さんは私の足に一番合った木型の靴を2足選んでくれました。デザインは違うものの、どちらもつま先が丸く、甲にベルトがついています。私が最も履きたくない形の靴。「こちらの靴の方が・・・」と、つま先がやや細めでベルトのないすっきりした靴を示すと、販売員さんは、「そうですよね。こちらの方がスマートな形で増谷様のお好みだと思います。ただ、こちらは増谷様の足には、かなり負担がかかると思います。なぜかというと、ベルトがないので甲をしっかり固定できないこと、足幅が広い木型のため足に合いにくいからです。本当に申し訳ないのですが、私としては痛めていらっしゃる足にあわない靴はお勧めしたくないのです」と。

■自分事として受け止めていることが伝わる接客姿勢

何度も履いて鏡で見ましたが、やはりビジネススーツにはあわないように思いました。足に負担がかかると言われた靴も履き比べながら、かなりの時間どうしようかと迷いました。販売員さんはまるで自分事のように寄り添い、見守ってくれています。

さんざん迷った挙句、私は販売員さんが勧めてくださった靴に決めました。「やはり、こちらの靴にします」と言うと、販売員さんはとても嬉しそうに、「ありがとうございます。そこまで譲っていただいて、本当に嬉しいです。ありがとうございます。痛めていらっしゃる足が、この靴で少しでも緩和されることと思います」と。私は、「そこまで譲っていただいて」という言葉に、涙が出そうになりました。私のことなのに、まるで自分のことのように受け止めてくださる接客姿勢に、本当に心が大きく動かされました。

■「真にお客様の立場に立つ」とは

私が「どう思いますか」と販売員さんに意見を聞くと、一貫して「お客様の足に負担のかかる靴はお勧めしたくない」というスタンスです。しかも決してそれを押しつけることなく、お客様が決めるまで寄り添う、なかなかできない接客です。「真に相手の立場に立つ」というのはこういうことなのでしょう。

「相手の立場に立つ」ということは、言葉にするのはやさしいですが、実践するのは難しいものです。きっとこの販売員さんは目の前のお客様に対して、「もし、私があなたなら…」、と置き換えて考えているのだと思います。

「本当のプロ意識」「真にお客様の立場に立つ」ということを、この販売員さんから改めて気づかされた気がしました。


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